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♪アメリカンロイヤーになろう♪

今回の特別企画展は「アメリカンロイヤーになろう!」ということで、アメリカの弁護士資格取得についての私が調べたレポートです。かなり長いのですが(16000字)興味がある方はは読んでいってくださいね。もちろんご意見ご感想はお待ちしています!!因みにこれは私のゼミの99年度の発表原稿です。


アメリカンロイヤーになろう! 〜 to be an American lower!!

 0.Introduction

 今回私の発表は「ペリーメイソン」を読んだこともあり、どうしたら私もペリーメイソンになれるのだろうか?という疑問より発展していったものです。日本人として日本の大学を卒業しようとしている今、果たして「ペリーメイソン」になるチャンスがあるのか?そしてなるにはどうしたらいいのか?などを中心に調べてみました。逆に言えばアメリカは弁護士大国といわれるほど弁護士の数が多く、今後アメリカとの関係を持つ人も多くいることでしょう。ですからきっとアメリカの弁護士とのつき合い方と言う面でアメリカンロイヤーを正確に認識する助けにもなると思うのです。

1.何故アメリカン・ロイヤーか?

1.
1国際化 global standard = American standard

 日本の経済・社会の急速な国際化により、国際取引はかつてのように貿易会社だけが行うものではなくあらゆる企業が関与する時代になってきています。国際間の取引が進めばこれに不随して摩擦や紛争が増えるものです。例えば独占禁止法訴訟、知的所有権訴訟、製造物責任訴訟、労働訴訟など数多く生じ、日本企業が対応に苦しんでいるのは報道されているとおりです。

 その原因は幾つか考えられます。その一つが、日本企業同士の取引にあったような長年の取引に裏打ちされた人間関係で処理するわけにいかないということではないでしょう。日本においては共通の「常識」が極度に発達していると言えます。その「常識」は法律が問題となるような場合、つまり契約を締結するとか、契約の履行に関して問題が起こったような場合には「信義誠実の原則」と表現されます。契約の殆どに「本契約の定めなき事項については両当事者、審議誠実の原則に基づき双方協議の上取り決めるものとする。」とか「本契約に関して疑義まだは紛争が発生した場合は、両当事者、信義誠実の原則にもとづき、協議の上解決するものとする」というたぐいの条項が必ず入っているものです。こういった状況は法律的には話し合いがつかない場合に当事者としてどうするかが問題なので、そのときの対策を規程しておくのが契約書であるべきであり全くナンセンスです。法律的な争いに入る前に日本人の傾向として「信義誠実の原則」に沿って協議するというのが日本人が強固に守る解決方法なのです。法律上の権利義務の優劣よりも相手が「信義誠実の原則」に従っているかどうかの方が大きなウェートを占めているとも言えます。この場合、柔軟にどんな場合をも対処できるというメリットはあるのですが、逆にデメリットも大きいのです。同じ「常識」を双方とも共有しているという前提ですから「協議」によって問題が解決できない場合、相手は信義にもとる奴であり、常識のない奴ということになり、紛争は道徳問題となり、当事者はひどく感情的になる傾向にあります。被告となる方も訴訟は「恥」と考えるのです。よって日本では裁判はどうしても道徳や正義の対立になるから、とことん争われます。同じ思考でアメリカに置いて日本人は裁判闘争をするので、弁護士費用や、かつ計算を度外視して争おうとすることはアメリカの弁護士の間では有名な話だそうです。

 一方アメリカはモザイク国家であり「常識」が支配する範囲は非情に狭いわけです。しかも、意見の相違を対立する立場で議論を尽くしてどこに正義があるかを見つけようとする社会であるのです。また、アメリカにおいては訴訟提起の容易さ、陪審制、懲罰的損害賠償などの構造的な違いからアメリカ人にとって、契約書に書かれていない事項が発生するのは非情に恐怖なわけなのです。こうしたルールを理解せずに、アメリカ社会に置いて取引を行おうとするのは私はおかしいと思うのです。世界にむけてビジネスを拡大しようとするならばstandardについての理解をするべきであり、そういった面でリードしていく人材としてのアメリカンロイヤーでもあるわけです。好き嫌いはどうあれ、global standard = American standardということを考えなくてはいけないと思うのです。

2 留学しよう!!

 アメリカの弁護士資格は州ごとに異なっておりアメリカ全土に共通の資格ではありません。したがってアメリカの弁護士資格を取得するためには後で詳しくお話しする、各州が実施する法曹試験(Bar Examination)に合格しなければいけません。しかし、この試験は一定の資格が必要なわけでこの受験資格は各州により異なりますがアメリカ法曹協会(American Bar AssociationA.B.A)が認可したロースクールで教育を受けることを要求している州が殆どなのです。従って私たち日本人がアメリカの弁護士資格を取得を目指す場合にはABAの認可したロースクールで学ぶのが最も適切と言えるでしょう。

 
2.1ロースクール

 アメリカ人も普通18歳で高校を卒業し大学に入り学部学生(Undergraduate)として原則四年間(薬学、工学、建築などは五年)学び学士(Bachelor)の称号を得て卒業します。その後ビジネススクール、メディカルスクール、エンジニアリングスクール、ロースクールといったプロフェッショナルスクール(Professional School)へ進学するわけです。アメリカの法学教育はこの大学院レベルで初めて行われます。 弁護士資格取得を目指す場合、通常このロースクールで三年間勉強しJ.D.Juris DoctorDoctor of Jurisprudece)を取得した後、自分が目指す州の法曹試験(Bar Examination)を受験する事になります。ロースクールにはこのほかに一定の法学教育を受けた人を対象としたLL.M(Master of Low;法学修士号)、M.C.LMaster of Comparative Law;比較法学修士号)といったより短い期間のいわゆるGraduate ProframもありますがJ.D.なしでは法曹試験を受けられない州が殆どです。J.D.プログラムに入学する場合には既に何か一つの学位を取得していることが必要です。それは法学士である必要はありません。

2.2 志望校選び♪

 ABA認可校だけでも全米で170校を越えますがやはり評判というものがあり教授陣の質、良いローファームへの就職しうる確率、図書館などの施設の充実度など様々な要因によりこれらの評判が決まっています。常にトップランクとされているロースクールを紹介しましょう。

 ・エール:クリントン大統領の出身校。東海岸コネチカット州ニューヘブンに所在。学生が少ないのが特徴で毎年5000人を越える志望者から175人しか入学を認めない。治安が悪いのが唯一の難点。

 ・ハーヴァード:全米で最も古いロースクール(1817年創立)。ボストン郊外のケンブリッジに所在。学生数が非常に多い。(一学年500人以上)

 ・スタンフォード:サンフランスシコより電車で約一時間のパロ・アルトに所在。カリフォルニアの明るい風向にマッチした色調と幾何学的な美しさを持つ広大なキャンパスは訪れるものを感嘆させる。

 ・シカゴ:シカゴに所在。保守的なロースクールとして有名。やや治安が悪いのが難点。

 ・コロンビア:ニューヨークのアップタウンのハドソン川よりにあるモーニングサイドハイツに所在。ヤング教授(Pro.Michael K Young)をDirectorとするCenter for Japanese Legal Studies の存在で日本でも有名です。

 ・ミシガン:デトロイトから来るまで一時間世界でも有数の大学街Ann Arborに所在。

 ・ニューヨーク(NYU):ダウンタウンのワシントンスクエアの近くに所在。税法、著作権法、特許法の分野が強い。

 ・ヴァージニア:トップクラスのロースクールであるにもかかわらずリラックスした雰囲気の中で勉強できることで評判。大学の設立はトマスジェファーソン。

 ・デューク:ノースカロライナ州の人口12万人の街ダークハムに所在。美しいキャンパスと学生数が少ないことが特徴。

 ・ペンシルヴァニア(PENN):アメリカ合衆国tんじょうの地であるフィラデルフィアに所在。ワシントンニューヨーク共に列車で二時間でいける。

 ・ジョージタウン:首都ワシントンに所在。ロースクールはメインキャンパスと離れたキャピトルヒルの近くにあり、独自のキャンパスがないのが難点

 ・カリフォルニア大学バークレー校(UCB)サンフランシスコ郊外に所在。マイノリティーのリクルートに熱心で学生の31%がマイノリティ。学費が安いのが魅力。

 ・ノースウェスタン;シカゴのダウンタウンのミシガン湖畔に所在。治安も良好。

 ・コーネル;ニューヨーク州北部のフィンガーレイク地方の人口3万の都市イサカにあり、美しい自然に恵まれたキャンパスは全米一といわれる。

 ・テキサス:州都オースティンに所在。ハーヴァード同様学生数が非常に多い。学費が安いのが魅力。

 ・カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA):ロスアンゼルス西部の学生街ウエストウッドに所在。

 こうしたABA認可校の中から上位校、準上位校、中位校を数校ずつ選び出し10校ほど願書を出すのが良いと思います。

2.3 手続きと関門

 入学するにはどうしたらいいのでしょうか?日本のように大学別に個別な入学試験を受けに行くというシステムではありません。ロースクールの多くは秋学期(Fall Semester)入学します。願書を通して受験校を出願する所は同じであり、入学する年の前の年の9月1日より入学願書を受け付けます。その願書ですが、ロースクールに入学するに受験が不可欠であるLSATLaw School Admission Test)というテストの受験手続き様式一式の中に各ロースクールへの願書請求葉書が同封されています。LSATとは法律を学ぶにあたって必要とされる能力の有無を調べるための一種の適正試験であり、試されるのは文章読解力、論理推理力、分析的推理力といったもので法律の知識は全く必要とされていません。形式はエッセイの部分が30分、多肢選択形式の部分が2時間55分(35分のセクションが5つ)合計3時間25分という試験です。(途中で5〜10分の休憩あり)

 エッセイの部分はとくに文章を書く能力を調べるもので採点こそされませんが写しが志望しているロースクールに送られます。選抜にあたってそれをどのように用いるかはロースクールに委ねられています。多肢選択形式の部分は五つのセクションの内四つのセクションのみ採点されます。ただどの四つのセクションが採点されるのかは受験者には分かりません。問題数は118〜132問です。一問につき2分弱の時間しかないことになります、問題の例を挙げておきましょう。

 「『9人の親族A、B、C、D、E、F、G、H、Iが旅行に出かけた。AはCの義理の兄弟である。BはCの姉妹でありB、Cはほかに兄弟姉妹はいない。EはBの義理の姉妹である。FとGにはHという娘がおり、Fが父親でGが母親である。DEの子供である。HはDと結婚しておりIという息子がいる。誰も再婚の経験はない。』という設定の下でIの祖父に当たらないのは誰か」

 と言った問題です。採点は違う時期に行われたLSATの特典と正確に比較し得るように生のスコアを修正し120点〜180点の範囲で出されます。受験後約4〜6週間で受験者に送付されます。因みに日本でも実施していて横田基地や青山学院大学で受験可能です。年4回2月、6月、10月、12月に行われますが入学する前の12月の試験が最後の機会となります。入学願書を取り寄せたならば必要になるのは

  1. 大学時代の成績証明書の写し

  2. LSATの成績

  3. 推薦状(Letter of Recommendation) 複数可能

  4. Persona Statement(何故自分が法律を学びたいのかを中心とした自己アピールの文章)

  5. 財政能力の証明書(銀行の預金残高証明書などの学費その他の費用を支払える能力があることを示す文書)

  6. TOEFLの得点

です。推薦状についてはゼミの教授や上司に推薦状を書いて貰うのが良いでしょう。志願者の経歴や個性、ユニークな面を誠実に説得力を持って示している推薦状が優れていると言えます。 Personal Statementについては志願者が何故ロースクールで学びたいのか、興味の対象、自分を入学させるとどんなめりっとが学校にはあるのか、などをアピールすることになります。こうした文書は学部時代の成績やLSATにおいて合格基準がグレーゾーンにある場合に用いられるといわれ、数字からうかがえない志願者の人間としての成熟度、課外活動の状況、過去に仕事をした経験の有無などを考慮に入れて合否を決定しているようです。とにかく採点者の目の引く文章であることが大切です。

 合格の発表は日本のようにある日ある時に一斉に発表するというわけではなく、入学の年の一月から夏ごろまでかけて毎月百人ずつくらい合格通知を送り出します。入学辞退者が出るために合格者の決定を何度にも分け過不足を調整するのです。

3.アメリカで学

3.1 アメリカの法学教育

 ロースクールでの教育は伝統的にケースブックと呼ばれる判例集を教科書として用います。アメリカの法制度の概観、判例の読み方から始まって憲法、刑法、契約法、不法行為法、物権法、会社法、民事訴訟法、行政法、州際法、税法を学びます。それぞれにケースブックが存在し、一冊1000ページ以上の電話帳のようなテキストなのです。各授業に対して大体20〜50ページ位のこのテキストを読むことを中心とした宿題が出されるのです。講義は有名なソクラテスメソッドという方法が主に用いられ、先生が一人の生徒を指名し、宿題として読んできたはずの判例に関し「原告は誰か?」「原告の主張とその根拠は何か?」「何が争点となっているのか?」「判例はどう出たか?」「何を主張しているのか?」などを質問していくのです。
また大学によって違うかとは思いますが私が調べたジョージタウン大学では十人くらいの単位に分けてロークラブを作り、そのロークラブには一人の上級生がつき、リサーチの仕方、リーガルライティングの技術など、法律実務の基礎を指導するシステムもあります。このロークラブの単位で校内にあるムートコートルームで模擬裁判などで訓練を通しての実務練習も行うのです。1年生の内は1単位の授業を週に16時間、土日をのぞいて毎日2科目、各科目週2回の授業、加えてロークラブのスケジュールがあるわけで、とても大変です。(現在少々減っているという情報もありますが)契約法、物権法、民事訴訟法、刑法、不法行為法は殆どのロースクールで一年生の課目となっており、これらの課目を通じて法律に初めて触れる一年生は法律についての特定の知識を身につけると言うより、法律的な思考過程、問題の分析方法などを徹底的にたたき込むことを目的としています、そこには法律の勉強はまず基礎を固めることが肝要であり法律の基礎を教えるには基本課目の判例を繰り返し読ませるのが最良だという伝統的な考え方に基づくものです。

 ロークラブでは具体的に、授業では教えることの出来ない法律の実務を身につけさせることを目的としていて正式には「法律的作文ならびに検索基礎セミナー」と名付けられています。ブリーフと呼ばれる判例の要約の作り方から図書館の使い方レポーターと呼ばれる判例集の種類、その用い方、判例の番号表記法、ダイジェストと呼ばれる事項毎に判例を纏めた本から逆に必要とする判例を見つけだす方法等々を先輩から学んでいく訳です。そして実際にロークラブ対抗で模擬裁判などが行われ、それに向けてメンバーは陳述書など裁判所に提出書類を作るところから始め、弁護人として上級生演じる裁判官の前で弁論を繰り広げたりもするのです。これを「ムート・コート・コンテスト」といいますが学内で優勝すると賞金がもらえる他、その後地区大会、全米大会へと出場し他のロースクールのチームと争うことになります。トライヤル・ロイヤーとかリティゲーション・ロイヤーと呼ばれる裁判専門の弁護士を目指す学生にとって最上の実務訓練であり、優勝すれば就職にも有利だそうです。

 試験は秋学期の終わりと春学期の終わりにそれぞれあります。日本の大学と同じように大体後期である春学期の終わりに試験が集中し、そのときに必要な努力は大変なものです。中でも一年生のときの試験が一番大変と言われ、まさに中夜を問わず勉強に明け暮れることになります。読まなくてはいけないページ数は半年で1000ページを超え、日頃読んだ判例に対してブリーフを作っておく等の事をしていないととても間に合うものではありません。試験期間は三週間。5月の末から行われ、3、4日おきに一科目位の割合であるのですが試験時間は四時間もあるのです。また少しでも良い成績を取らないと条件の良い就職につけないのです。後述しますがアメリカンロイヤーを目指すものとして何処に就職するかというのは大変な関心事となります。多くの学生が4、5人でスタディグループを作り一緒に手分けをして勉強したりするのが一般的だそうですが、自分たちのグループにいかに優秀な同輩をリクルートしてくるかというのもポイントになってくるという話です。また、優秀な成績を収めることにより、その学校で発行されているロージャーナルとよばれる法学雑誌の編集に参加することが出来るようになります。(詳しい話は後述)

3.2 夏休み♪

 第一学年が終わると夏休みです。殆どの学生は最初の夏休み、法律以外の分野のアルバイトをしたり旅行をしたりして比較的のんびりと過ごします。ジョージタウンロースクールでは「今後30年間で、最後の本当に自由な夏」とも言われているそうです。その夏休みが終わり第二学年が始まるとほどなく次の夏休みのサマーアソシエートの募集が始まります。第一学年のときよりは慣れてきたことも相まって余裕があり、そのための時間も割けるようになります。サマーアソシエートとは、ロースクールの学生が第二学年が終わった夏休みに実際の法律事務所で見習いをする制度のことを言います。確かに賃金を得るためと言うこともありますが、なによりもローファームでの実習体験は卒業後の就職への一過程として大変重要なのです。これは法律事務所が夏に雇った実習生の中から卒業後に正式採用する学生を選ぶからです。もちろんそうでない場合もあります。いわばローファームと学生の間の見合いのようなものであり、お互い相手が気に入れば正式採用を決定します。


 オン・キャンパス・インタビューと呼ばれる学校での面接が開始されます。全米各地の主要な法律事務所が中堅の弁護士をその母校へ派遣し、就職部にて面接をするのです。一流ロースクールへの就職が学校の評価ともつながるため学校も少しでも多くのオン・キャンパス・インタビューを実施しようと努力します。このインタビューは足切り的であり、これを終えると今度は事務所での面接があり、正式にサマーアソシエートの予定が決まります。事務所の面接の他に、昼休みにはリクルートランチと言って、現役のロイヤーが学生を連れ立ってちょっと豪華な昼食会を開かれたりします。そこでは大体入所1,2年目の弁護士に実際の事務所の実態について詳しく聞いたりする機会を得るわけです。勿論これもインタビューの一環であるからこちらも判断されることになります。そして最後に採用かどうかを決めるわけです。

 サマーアソシエートのプログラムは見合いのようなものと言いましたが、ローファームはただの労働力の補充と考えているわけではなく、むしろ、金の卵が事務所をよく知り気に入って貰って、卒業後また帰って来るつもりとなるための機会にしたいと思っています。ですから、実習であり、給料を支払うわけで、仕事はさせますがその扱いはそこで働くロイヤーと同等となります。つまり弁護士として一通りの仕事を経験させる総合的なものとなるのです。ですから、ニューヨークの一流法律事務所になれば、クルーザーを一隻借り切って、マンハッタン島を一周するディナーパーティにも参加したり、ロングアイランドの由緒あるカントリークラブへでかけゴルフをしたりテニスをしたりしてロイヤーとしての慰安のための機会までも与えられるわけです。事務所内に置いても秘書やその他のノン・リーガル・スタッフはもちろん、ロイヤーの妻も参加を許されない会合にも参加する事が出来るわけです。これも全て市場の原理でありサリバン・クロムウェル事務所などといった一流の法律事務所に対し体は全米の主要なロースクールの中の最優秀の学生が集められるわけで、成績のよい学生は至れり尽くせりの一方で、サマーアソシエートの口を得られずに四苦八苦する学生もいるわけです

3.3
上級学年へ

 2,3年生が楽と入ってもそれは一年生と比べての話であり、上級学年になれば必修科目に加え選択科目も増えるわけで忙しいことにさほど変わりはありません。「一年目には死ぬほど怖い、二年目には死ぬほど辛い、三年目には死ぬほどだるい」という歌がある程です。ロースクールで学ぶ学生の出身は様々で、確かに22,23才といった学部を出てストレートにきた人が多いとはいうものの、他の分野の大学院を終了してからロースクールに入り直したり、三十代は珍しくなく、更に四十代五十代の学生もいます。アメリカでは年を余計に取っていることは哀れみの対象になっても尊敬の理由にはならないらしいのです。よって、結婚していて通う学生も多く、「法学生配偶者友の会」なども結成されているそうです。レベルの高いロースクールほど、並大抵の成績では入れない為、フレッチャーやジョズホプキンスなどの国際関係専門大学院の博士号取得者やCPA、つまりアメリカ公認会計士の資格を持っている人、果ては医師の資格を持つ人までいます。また、パテントロイヤーと呼ばれる特許専門弁護士を目指す人の中には理系の工学士号や修士号を持っているのが当然のようです。勿論職歴も様々で議会のスタッフ、ワシントンポストなどの記者、ベトナムの帰還兵、本の中の体験談に実際にあったのですがGMのテストドライバーまでいたそうです。アメリカにおいて、資格を多く取ることはプロフェッショナルの中のプロフェッショナルとして扱われるわけですから確かにロースクールで三年間を学びすごすことは十分にペイされると考えたからでしょう。誰もがプロフェッショナルになりたがる、そうでなければ自分の仕事に誇りが持てない、という一種の社会を表していると言えます。

3.4 目指すは優等生で卒業だ!

 最後の三年生位になるとはっきりと優等生組と言うものが現れます。ロージャーナルのメンバーであることが一つの優等生たる証しとなっています。ロー・レビューとかロー・ジャーナルと呼ばれる法学雑誌はアメリカのロースクール独特の制度ともいえ、権威ある法律専門誌でもあり学生が全て編集を担当し、年に数回発行されます。著名な学者や弁護士の論文が毎号巻頭を飾り、これをアーティクルといいいます。その他学生の論文がいくつか掲載されるのですがこれはノートといいます。第一学年の上位5%以内に入るものは自動的に編集に加わる権利をもらえ、その他のメンバーは一年生の学年末試験直後に指示されるか題に基づいて論文を書いて審査されます。「何か連絡があったらジャーナルのメールボックスにメモを放り込んで置いてくれたまえ」というのがジャーナルスタッフの気取りでもあるわけです。法学雑誌のスタッフになると上級学年で義務づけらる提出論文の数が減らされたりという恩恵もあるそうです。一流ロイヤーになる一種の通行手形のようなもので、ロイヤーの人名録にも出身スクール、優等賞の有無とならんで必ず記載されるものです。

 ロージャーナルの編集に携わることができなくても、一流の次のランクのローファームや地方都市の中堅の法律事務所、あるいは公官庁や企業の法務部に就職しようとするなら、成績もさることながらできるだけ実務の能力を付けておくことが大切になります。そのためのコースとしてクリニック・プログラムがあります。これも独特の制度といえるもので普段の講義からはなかなか伝授できない弁護士のいろいろな技術、例えば、訴訟の準備の仕方、クライアントからの話の聞き出し方、証拠の集め方などを実務を通じて身につけさせるものです。いろいろなコースがあるのですが、大体指導教員が一人から数人付き、実際に法律に携わる分野での実務を体験させるというのが一般的です。(刑事事件の被告人の弁護人をつとめたり、貧しい人々の法律相談に応じるといったもの。)

 一方で落ちこぼれてしまう人(成績が振るわない為にサマーアソシエートにも加われずにいたりする人)もいるわけです。アメリカではロイヤーになるのはそんなに難しくない為に、卒業してもロイヤーらしい仕事が出来るという保証は全くなくなるばかりか就職すら出来なくなります。そのためにもロースクールの卒業生の中で中上級の成績を収めていないと難しいと言えます。そんな場合にはともかくロイヤーとして就職できれば上出来であり、場合によってはロイヤーとして立つことを諦め、法律関係の出版社に勤めたり、司法試験の予備校のマネージャーになったりすればなんとか法律に携わることができるわけです。

 ロースクールに入り三度目の春がくると、いよいよ卒業です。優等生は「スンナ・クム・ラウディ」(最優等生)、「マグナ・クム・ラウディ」(準最優等生)や「クム・ラウディ」(優等生)などの称号がもらえます。これはラテン語で「盛大なる拍手を持って」と言った意味で文字通りみんなから拍手で祝福されます。卒業式では大抵野外で、父系や家族が見守る中、黒いガウンをまとった卒業生が入場し、同様にオレンジや赤の派手なガウンをまとった学長以下教授、ゲストの来場、スピーチがあります。その後学生達はフードと呼ばれる紫色の帯を首からと通しあって祝いあいます。

 その後、各セクションに別れての卒業証書の授与で全ての行事が終わり、卒業となるわけです

4.司法試験〜Bar Exam

4.1 司法試験の性格

 アメリカで弁護士として働くためには、各州のバーイグザム(司法試験)を受けてライセンスを取得しなくてはいけません。まず全米50州とワシントンDCの合わせて51の何処の試験を受けるかまず決めなくてはいけません。どの州で受験をするのかを決めたら第一にすべきことは予備校への入学手続きです。予備校といっても大体が出身校の教室を借りて講義が行われており、改めて別の学校に通うという事ではありません。全米の司法試験受験生の三分の二以上が毎年BARBRIおいう受験予備校最大手の講座を受けています。アウトラインという教科書を用いて、州法と全国共通のテストを勉強します。ロースクールでは法律的な考え方を学生に身につけさせる方に重きを置くのですが予備校では、司法試験を目指し、個々の法律の条項を覚えることに重点が置かれます。そして、エッセイ・テストの答案練習も平行して行われます。例えば択一式の試験問題は「ニューヨーク州の民事訴訟法上、訴状の改訂は何日以内に行わなくてはいけないか?」といった感じの問題ばかりなのです。(難しい州;ニューヨーク州やカリフォルニア州、ワシントンDC等)ここでアメリカにおける司法試験の役割というものが伺い知ることが出来ると言えます。日本の司法試験は法律かとして真に能力がある人を選別することを目的としていると言えますが、こうして来る日も来る日もつまらない暗記をさせるアメリカのバーイグザムは、ロースクールを卒業した人の中からよほど法律家として向かない人をふるい落とすものだと考えて良いと思います。高度な法律的思考を要求する問題は余り出題されずに、基礎的なルールを事実関係に確実に適用する能力を試す問題が数多く出題されるのはこのためとも言えます。いくら合格率は高いと言っても実際に落ちる人もいるわけで、七月の試験で落ちてしまえば最後、来年の二月のチャンスがあります。しかしここで逃してしまうと、大変なことになってしまいます。

4.2 司法試験受験
 各州の司法試験は各州の州都で行われます。州によって異なりますが殆どの州がMBEMultistate BarExamination)と呼ばれる各州共通の試験と、州固有の試験をと組み合わせて行っています。このときこの二つの試験の点数の配分は各州によって異なってきます。MBEは択一式の試験で午前、午後それぞれ三時間、合計六時間で二百問を解くことになります。出題分野は、憲法(Constitution)、契約法(Contracts)、不法行為(Torts)、不動産法(Real Property)、刑法(Criminal Law)、証拠法(Evidence)の六つです。

 一方各州個別の試験はニューヨーク州の場合択一式試験五十問にエッセイで、半分ずつ午前と午後に別れてそれぞれ三時間十五分の間に解かなくてはなりません。各州別の択一式の問題は重箱の隅をつつくような問題であり、重要になってくるのはエッセイです。限られた時間の中でいかに要領よく論点を見つけ、州法のルールを見つけて当てはめ、結論を導くかが勝負の鍵となるそうです。エッセイの問題は須く「CIRFAC」の順序で書くべし、とされています。すなわち「Conclusion(結論)」、「Issue(論点)」、「Facts(事実関係)」、「Argument(帰結方法)」、「Conclusion(結論)」であります。

 更に弁護士になるにはMBEやエッセイなどの学科試験だけに合格するだけではだめで職業倫理試験に合格する必要があります。MPREMultistate Professional Responsibility Test)と言われ大体がロー・スクール第三学年在学中に受験してしまいます。五十問の択一式でMBEに比べれば遙かに易しく学科試験後直ぐに弁護資格をえたいのであればロー・スクール在学中に取ってしまう方が良いでしょう。

 4.3 合格

 バーイグザムの合格発表は掲示、電話問い合わせ、その後通知という手段で行われます。更に例えばニューヨーク州の場合には「ニューヨークロージャーナル」といった各地での法学雑誌にも合格者の一覧は掲載されます。電話での場合、受験番号と指名を言うと「That was succesful」という言葉でもって合格が伝えられるわけです。司法試験に合格すると、所定の書式に従って裁判所に弁護士資格の申請をしなくてはいけません。裁判所は申請を受理して審査します。申請者の人格が弁護士として開業にふさわしいと認めると先生をさせ正式に資格を与えます。合格者の人数が多い為に宣誓式は四週間に一度大体150〜200人にわけて宣誓式を行います。このときの審査に必要な書類とは過去何処に居住したか、法律に触れるような行いをしたか、など事細かに身上書のようなものを書くわけです。最後にモラルアフィダビットといって「この人なら確かに悪い人ではありません」といった趣旨の知人の宣誓書を二通提出しなければなりません。そして、提出書類順に面接となるわけですが、宣誓式の前に大法廷において裁判官のまえで簡単な質問にこたえることになります。

 同じ法廷で日を改めて宣誓式になります、弁護士資格審査委員会の部屋出頭してオース・ブックと呼ばれる書類に指名を記載します。そして正装で大法廷に置いて宣誓をいよいよ行うわけです。

 阿川直之さんの本によると、宣誓式は……

 「一同起立」という法吏の指示があり、全員立ち上がると黒いガウンをまとった三人の判事が判事席の下手から姿を現した。判事が席に着くと、みな着席する。法吏が開廷を宣言してこれから宣誓を行うと大声で言う。再び80人の宣誓者が起立して、法吏の指示に従う。「右手を挙げて」「私何々は」「私ナオユキ・アガワは」「ここに宣する」「ここに宣する」。全員が唱和して、お経を上げているようだった。宣誓はすぐに済み、判事からの祝辞があって式が終わった。

といった感じです。

5. 最後に

 こうして弁護士になるまでの様子をつぶさにみていくと、日本の法学教育とは随分違産分がわかります。学部卒業後ということで学問的思考訓練を受けた後ということもあるかもしれませんが、これほどの時間と努力を費やさなければ本当のリーガルマインドは身につけることが出来ないのでは、と思いました。

 

==ENDE==